2019/08/30
セルゲイ、はじめての謁見
狂的な信仰心を弟子にも植え付けるワークマンは罪深い。
「それで、ワークマン。"それ"が噂の弟子になった男か?」
「ええ。セルゲイ」
いつも通り静かに師匠たるワークマンの後ろに立っていたのに、突然背を押され首長の前に出された。まさか紹介されるとは思っていなかったために驚き戸惑いながら、慌てて礼をする。
「良い。……アビスに適合したとか」
「はい、咥内に。その為話すことは出来ないのですが」
「構わん、沈黙は金だ。こちらへ」
カシュパの首長、黒い目のサルポザ。
師匠に話は聞いていたものの、きちんとお会いするのは初めてだった。
大きな体躯に、見るだけで分かる強大な魔力。名の通り目は黒く、ちらちらとアビスの光が見て取れた。
「良い目をしている」
皮手袋に包まれたサルポザの手がセルゲイの頬に触れ、下瞼をすこし捲った。顔が近づき目が覗き込まれると、サルポザの目を間近で見ることになる。
セルゲイに埋め込まれたものよりずっと純度の高い、アビスの黒い目。
吸い込まれるような闇よりも濃い黒。星が見える。まるできらめく夜空のよう。
「セルゲイ」
サルポザに名を呼ばれてはっとした。
その時はじめて、自分の体がカタカタと震えていることに気付いた。
「そう怯えずとも殺しはしない。お前はワークマンの弟子だからな」
黒い視線がフイと他所を向く。
「ワークマンはよき師になる、励めよ」
それだけ言ってサルポザは離れていった。
「……彼が我らの神だ」
去っていくサルポザの背を見ながら、ワークマンがポツリと呟いた。
神。ああ、そうか。身体の震えは、今やその原因を変えていた。
そうして震えながらサルポザの背を見るセルゲイの目に、尊崇が、敬慕が、恍惚がにじむのを見て、ワークマンは満足そうに頷いた。
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