翌朝
ゴンザは久しぶりに爽やかな朝を迎えた
いつもは憂鬱なまま夜が明けるから
久しぶりにゆっくり休んだ気がする
「おはよう」
「おはようございます坊ちゃま」
メイドたちが慌しく走り回り、仕事をこなしている
いつもはジェイドが纏めて落ち着いてるはずなのに
早起きで優しく笑っているジェイド
…今日の朝はそれが無い
「…じいやは?」
「それがまだ…坊ちゃま、見て来て下さいますか?」
まだ起きていないのだろうか?
ゴンザはしょうがないな、と思いつつジェイドの部屋の方に歩いていった
きちんと掃除された廊下を歩む
昔はこの辺に来て遊んでジェイドに怒られたなと思い出しながら
この家は皆住み込み制で一人一人に部屋が与えられていて
一番奥の白い扉…ここがジェイドの部屋である
ドアを拳で軽く叩く
「じいや?」
少し古くなった扉が音を立てて開く
カーテンの締め切っている暗い部屋
苦しそうな咳と異常なほど荒い息
清潔そうな白いベッドには弱ったジェイドが寝ていた
「じいや!?」
「あぁ…お坊ちゃまですか…?」
ジェイドは青白い顔を無理にこちらに向けた
ゴンザは慌てて駆け寄った
「じいやなんで…!?」
「わ、私は大丈夫です…」
「動かないで!!」
無理に起き上がろうとするジェイドを手で制す
「おい!!誰か医者を…!!」
「お坊ちゃまは優しい方ですな…じいやは幸せ者です」
ジェイドはそういって小さく微笑んだ
「坊ちゃま!駄目です、御主人様の許可が無いと…!」
慌てて入ってきたメイドはそういった
ゴンザは唇を噛み締めて携帯を取り出し、父に電話をする
意外と早く繋がる
「父上!!ゴンザです、今すぐ医者を…」
[何故だ?]
小ばかにしたような声
「ジェイドが…ジェイドが!!」
[…]
ブチッ!
音を立てて通信が切れる
ゴンザは唖然とした
…あのときの、わずかな母の思い出がよみがえる
父上…貴方はオイラの大切な人をどれだけ奪う気なのですか?
「お坊ちゃま…私はいいので学校へ…」
「良くない!!」
「私はもうだめなんですよ…」
「そんな事…っ」
そんな事は知りたくなかった
知ってしまった今…どうすることもできない
ただ痛いくらいに手を握り締めることだけしか出来なかった
「もう私も歳です。そろそろ休んでもいいでしょう?」
ジェイドは微笑んでいった
この家の召使達は自分に託されていて
ゴンザは流れる涙を拭い、立ち上がった
「ジェイド。貴方に「永久休暇」を与える。
…ちゃんと休むんだよ」
「ありがとうございます、お坊ちゃま…
一足早いですが
誕生日、おめでとう」
小さく、弱々しく微笑むとゴンザの頭を撫でて
静かにジェイドは瞼を閉じた
誕生日?…あぁ、明日は自分の誕生日か
「お休み、じいや…」
さよなら、愛しい人よ
ゴンザは少しだけ呻いたがもう泣きはしなかった
しかし、心の中で泣いて泣いて泣き叫んで
もう涸れてしまいそうなほど、泣いた
(一日早い誕生日プレゼントはじいやからの最後の愛情)
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