そんなこんなで私はメガトロンさんの部下になった。
でも、戦いに繰り出されることなんて一度もなくて、分からない事だらけだ。
私がやるのはリモコンに触ってエネルギーを溜めて、傷付いたメガトロンさんを癒す。
リーダーだからか知らないけど、結構な頻度で傷付いてくるので全身を直すのは結構大変だ。
メガトロンさんには内緒だけど、サウンドウェーブさんの事も癒してる。あと、他のトランスフォーマー達も。
スタースクリームは癒してあげたことないけど。だっていつも睨んでくるから怖いんだもん。
最近サンダークラッカーっていう水色のトランスフォーマーがよく「直してくれー」って小さな傷を見せにくる。
それから、ジャガーとコンドルと、それからフレンジーという私より少しだけ大きいくらいの紫のトランスフォーマーとこっそり遊ぶだけ。
――この基地から出ること意外は全て自由なのだ。
「どうして基地から出ちゃいけないの?」
「危険だろう。貴様に死なれては困る」
「……そ、っか」
そんなに戦争は激化しているのだろうか。
皆が出ている間によくモニターを見ているが、そんなにどこでも戦争してます、って感じじゃなかったけど。
まぁでも、出ようと思って出られるものじゃないので我慢するしかないけれど。
だってあの扉、開閉操作する機械が高いところにある上に私の力じゃ押せないんだもの。
しょうがないか。呟く。
私はメガトロンさんの部下になった訳だから、上司の命令は絶対だし。
今は、傷付いてきた皆を癒すしか私には出来ない。
他にも役に立てることはないかな、なんて思うけど、私は裁縫したり魔法を使ったり位しか出来ない。
魔法が使えるじゃないかって?一日に使える量に限りがあるし、そもそもあんまり威力は強くない。
それを取ったら私に残っているのは治癒の力だけ。あと帯電。
そう、それくらいしかないんだ。戦争に繰り出して戦えるわけがない。
「さて、ワシは新兵器の開発の様子見に行って来る」
「いってらっしゃい、メガトロンさん」
「いってらっしゃいボスー」
フレンジーがそう言って私の隣に座って手を振るが、サウンドウェーブさんに連れて行かれていった。
いやだーレイと一緒にいるー、だなんて。うーん、かわいいやつめ。
「気をつけてね、あんまり傷が多いと大変だから」
「分かっておるわ」
メガトロンさん達は大人しくしておけよ、と基地を出て行った。
私は彼らの姿が見えなくなると、モニターの前にころりと寝転がった。
その瞬間、喧しいくらいにサイレンが鳴った。
サイレン?違うわ、これは着信音。
体を起こすと、ピカピカとあるキーが光っているのが見えた。
そういえば、これがなった時ににあのキーを押して色んな人と通信していた気がする。
勝手に押してもいいのかしら。でも、急ぎのようだった時は大変だし……。
考えても始まらないわね、私はそのキーに近づくと、その上に歩いて乗った。
[――トロ―様――メガ―ロン様]
一瞬の砂嵐、モニターに映ったのは知らないトランスフォーマーだった。
紫色で黄色い一つ目の、本当に「機械」って感じのトランスフォーマー。
[メガトロン様?いらっしゃらないんですか?]
「メガトロンさんは今新兵器の様子見に行ってるわよ」
[……!?人間、何故そんなところに]
一つ目さんは低い位置にいる私を見つけると、困惑したように声を荒げた。
私は少しだけ微笑んで、スカートの裾をつまみ、お辞儀をする。
「私はライトニング・レイ。この間メガトロンさんの部下になったところです。あなたは?」
[レイ、か。メガトロン様も教えてくれればいいものを……。私はレーザーウェーブ、防衛参謀だ]
「レーザーウェーブさんね。私は戦力じゃないけど、よろしくね」
レーザーウェーブさんは「あぁ」と頷いた。
表情を読み取るのはなかなか難しいが、悪い人ではなさそうだ。
レーザーウェーブさんは考え込むように左手を口元(?)にやる。
ていうか、この人左手が武器になってるわ。なんだか生活し辛そうだ。
そんなことを考えていたら、レーザーウェーブさんが私に目を向けた。
[メガトロン様はどれくらいで帰ってくるだろうか?]
「うーん、ついさっき行ったばかりなの。だから、結構時間掛かるかも」
レーザーウェーブさんは少しだけ残念そうな顔をする。
彼の言動からして、急ぎの用ではないと判断する。
作戦とか、何かの連絡とかじゃあないみたいね。
[そうか……ならまた後で、]
「待って、切らないで」
私は、通信を切ろうとしたレーザーウェーブさんを慌てて止めた。
レーザーウェーブさんは不思議そうに首を傾げ、私を見つめる。
[何だ?]
「今、時間あるかしら?あったら私の話し相手になって欲しいの」
[話し相手?]
レーザーウェーブさんは訝しげに首を傾げる。
私はそんな彼に苦笑して、人差し指で自分を指差した。
「私、治療する能力があるみたいで、外は危ないらしいからずっとこの基地で過ごしてるの。基本的に待機だから、凄く暇なのよね」
[治療?ああ、だから人間を]
「私、人間じゃないのよ。魔法を使う魔女なの。魔法で治療するわけじゃないんだけどね」
レーザーウェーブさんが「時間あるよ!」って言ったわけじゃないのに、私は思わず話し続けてしまった。
こんなに沢山しゃべるのは久しぶりかもしれない、ってくらいに。
コンドルやジャガーはしゃべれないし、フレンジーは話を聞かずに「遊ぼうぜ!」だし、サウンドウェーブさんは無口だし。
スタースクリームは好き好んで私に近づいては来ないし、サウンドクラッカーもスカイワープもちゃんと話できる機会は滅多にない。
ビルドロンっていう部隊もいるけど、いつも何か作ってて忙しそうだから話しかけ辛い。
メガトロンさんはよく話すけど、あんまり雑談って感じじゃないのよね。
だから、こういう「雑談」は本当に嬉しい。前の世界じゃ雑談なんてする相手もいなかったしね。
その反動で私は今、凄く饒舌になっているわけだけど。
だが、彼は咎めることなく話し相手になってくれた。優しい人だ。
「あのスタースクリームっていうのはいつもああなの?」
[ああ、ずっと昔からメガトロン様を蹴落としてリーダーの座に就こうとしている]
とか、本当にくだらない話だ。
レーザーウェーブさんは何にでも答えてくれて、色々と質問もしてきて話が弾む。
どうやら彼もこういう風に誰かと雑談するのは久しぶりらしい。
[私はセイバートロン星に一人残って、ずっとこちらの基地を守り続けているんだ]
「セイバートロン星?それってどういう……」
「レーザーウェーブに魔女じゃねえか、お前ら何してるんだ?」
背後から声。振り返ると、そこには踏ん反り返ったスタースクリームが立っていた。
それからその後に傷付いたサンダークラッカーとスカイワープ。
……彼らもメガトロンさんやサウンドウェーブさんと出かけていったはずだが、何故?
訝しげに眉間にシワを寄せ、私はスタースクリームに問う。
「メガトロンさん達は?」
「メガトロン?今頃おっ死んでるだろうよ。サウンドウェーブはその隣で泣いてるんじゃねえか?
ハッハッハ、これで俺様がデストロン軍団のニューリーダーって訳だ!」
[……!!スタースクリーム、貴様メガトロン様に何をした!?]
レーザーウェーブさんがモニターの向こう側で声を荒げる。
私もスタースクリームを睨みつけて、箒を向けた。レベル2ぶつけても怒られないわよね、きっと。
すると、スタースクリームは愉快そうに笑って、やれやれとため息を吐いた。
「ハッ、お前に何が出来るんだよレーザーウェーブ?ま、これから散々コキつかってやるからよ。
魔女、お前はせいぜい外の世界で頑張りな。おい、サンダークラッカー。こいつを外に捨てて来い」
サンダークラッカーが申し訳なさそうに私を掴みあげる。
悪い、命令には背けないんだ、と小さく呟くのが聞こえた。
彼を巻き込んでまでスタースクリームを攻撃する勇気は、私にはなかった。
[待て、スタースクリーム!!こんなことをして許されるとでも、]
ブチッ。通信がスタースクリームによって切られる。
受信のキーが点滅しているが、スタースクリームはそれをけして押さなかった。
「ちょっと、スタースクリ、ンンッ」
サンダークラッカーの傷付いた指が私の口を塞ぐ。暴れても出られるわけがなかった。
静かにしてろ、殺されるぞ。弱弱しい声。――サンダークラッカー、酷い怪我だ。
何故だかじわり、と涙が滲んだ。視界が潤む。
ぎろ、とスタースクリームを睨むと、奴は何も出来ない私を見て愉快そうに笑っていた。
「人間やサイバトロンに見つかって殺されないようにな?」
その日、基地で最後に聞いたのはスタースクリームのそんな言葉だった。
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