「知ってる?中央大陸に未開拓地があるらしいよ。」
「あー知ってる知ってる。どこの国でもないんだろ?」
「そうそう、行ったヤツ一人も帰ってきてないらしいぜ。」
「なにそれこわーい。」
――いつもと同じ街、くだらない噂話。
俺は小さな溜息をつくと、ふぃ、と空を見上げた。
不意に、背中が重くなる。
うんざりしつつも振り返ると、そこには知っている顔があった。
「…重い。」
「冷たいな、ゼロちゃんてば。」
うっとおしげな目を向けると、彼はけらけらと陽気に笑った。
彼はギルヲ。ただのお荷物と思っていい。
「あ、なんか失礼なこと考えただろ?言わないとちゅーすんぞー?」
「うるさいお荷物。」
「うわ、傷付いた。いますっごい傷付いた。」
ギルヲはそういいつつも離れようとしない。
…重い、そして暑い、そして鎧が痛い。
「…頼む、離れてくれ。」
「いいけどキスしてよ。」
「…阿呆。離れないとヘルぶちまかすぞ。」
「安全装置働いてるし…ってちょ、ま、何して…」
「試さないとわからんだろう…?」
――同じ空の下。
盲目の男は一人で青い空を見上げていた。
「…ダンナ、部隊がいくつか向かってきてるぞ。」
ぎし、と骨の軋む音。
その報告を聞いた盲目の男は、深い溜息をついた。
「何度も何度も、懲りないな…ヒトというものは。」
ひゅん、と杖を振り上げる。
先程と打って変わって、口角を上げてにたりと笑う。
「我が従属共よ、…獲物の、来襲だ。」
いくつもの、骨の軋む音。
土が盛り上がり現れるそれは…。
「ハデス様の、名の元に。」
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