重い門が開く
無駄に大きな扉を開けると執事とメイドが出迎えてくれた
「ただ今」
「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」
執事のジェイド…通称じいや
ジェイドは優しい笑みを浮かべてゴンザから上着を受け取った
「…父上は?」
「まだ…仕事で帰って来ておりません」
ゴンザは溜息をついて階段を上がっていく
「お坊ちゃま、お食事は如何なさいますか?」
「…いらない…」
ぎ、と音を立てて戸が開く
部屋の中は真っ暗だ
ジェイドはそうですか、と小さく呟き
「しかし朝も何もお召しにならないで…」
「…ごめん、何も食べたくない」
吐き出すようにそう言って部屋の扉を乱暴に閉めた
「お坊ちゃま、また何も召し上がらないんでしょうか?」
「最近ずっと何も食べていらっしゃらないですけど…」
メイドたちがジェイドに駆け寄った
ジェイドは心配そうに部屋の扉を見つめた
「どんどん痩せていって…もしかしてお城で何か?」
「姫様がもしかしたら我侭な方なのでしょうか?」
メイド達が小さく囁き始めた
この家の主人は、まだ帰ってくる気配が無かった
…笑っていなければ
…笑わなければ…
「…オイラ、は」
暗い部屋の中
ゴンザは隅のほうにうずくまっていた
父は帰ってきただろうか?
窓の外はもう明るいだろうか?
「早く朝にならないかな…」
締め切ったカーテン
光はまったく入ってこない
コンコン
「お坊ちゃま」
ジェイドの声がした
「…入りなよ」
静かに扉が開き、人工の光が差し込む
あぁ、まだ夜だった
ゴンザは憂鬱になりまた毛布に包まった
「お坊ちゃま、少し宜しいでしょうか?」
ジェイドはいつもの優しい笑顔で部屋に入ってきた
「これをどうぞ」
そっとわたされたのはホットミルクだった
温かい…冷え切った体に浸み込む
「お坊ちゃま、何かあるなら何時でもじいやに言って下さいな」
「…じいや」
頭を撫でるのはごつごつとした老人の手
それが何故か心地よくて
ゴンザは静かに瞼を閉じた
「何かあったのでございますか?」
「…オイラは…笑ってなきゃ駄目なんだ」
「…と、云うと?」
ジェイドは不思議そうな顔をした
ゴンザは俯いてカップの中で揺れるホットミルクを見つめた
(白い水面は何も映さず、ただただ揺れているだけだった)
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