その日劉邦はやけに楽しそうに部屋に入ってきた。
…この前のことがあるからだろうか。
その手には小さな包みがぶら下がっている。
「今日は甘党の兄上にお土産があるんですよ。」
にっこりと笑い、包みを手渡される。
それを無言で受け取ると、背を向けて小包みを開けた。
中には淡い抹茶色の塊。ほのかに甘い匂いがする。
…それは、この部屋に入る前まで贔屓にしていた店の物だった。
「好きでしたよね、それ。」
「…知っていたのか。」
劉邦は何もいわずに微笑み、その菓子を薦めた。
一口、甘い。
二口、懐かしい。
ぽたりと雫が落ちる。
甘いはずのその菓子はほのかにしょっぱかった。
「如何して泣くんです?涙は悲しい時に流すものだと思いますが…兄上は何が悲しいのですか?」
「…貴様には分からんだろうな。」
ぐい、と涙を手の甲で拭って呟く。
劉邦は何がなんだか分からないような顔をして首をかしげた。
「…貴様は食べんのか。」
たまには気を利かせてやろうとそういったのに、劉邦は頭を横に振った。
「…むしろ私は貴方を食べてしまいたい。」
「云ってろ。」
こういうところが苦手なのだ、私は。
彼の口が紡ぐ一言一言は甘く、心に突き刺さる。
ち、と舌打ちをしてやけくそに菓子にかぶり付く。
劉邦はぼんやりとそれを見ながら呟いた。
「私はね、貴方を抱きたいわけじゃないんですよ。」
「…!?じゃあ何故この間っ…」
向き直りそう怒鳴ると少しだけ考え込み、言った。
「そう…ですね。言うなれば…」
そう、それは食欲に似た何かで
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