「兄上」
劉邦はガチャリ、と扉を開けた。
無駄に広い部屋。天井も、壁も、床もすべて白で統一された無の空間。
その無の中に、一人の男がいた。
彼は劉魂…自分の兄だ。
劉魂は眉を顰め歯をぎり、と食いしばり自分を睨んだ。
「何故殺さない!掟を守らぬ心算か!?」
「ふふ、何ででしょうね」
彼をあざ笑うようにくつくつと笑う。
劉魂はそれにイラついたようで、また怒鳴りつけた。
「そうそう、今日は下町の甘味を頂いて来たんです。
兄上、甘いものが好きでしたよね?」
怒声を遮ってそう言うとそっと袋を開けて目の前に置く。
劉魂は少し躊躇ったが、手で払い、中身が床に散らばった。
散らばったそれ―兄の好きだった飴だ―を見て歯を少し食いしばる。
「要りませんか?そうですか…残念ですね」
「っ…大体貴様は…ぐ、がっ!?」
劉魂は行き成り咽ると、喉を押さえて蹲った。
どうやら喉が涸れて、呼吸器官がおかしくなったようだ。
「ほらほら、そんなに叫ぶから」
ふぅ、と小さくため息をついて劉魂の顔に触れる。
「っ…触るな!」
ぱん、と軽い音がして手が弾かれる。
ひゅうひゅうと劉魂の喉が音を立てている。
「私に…触るな…っ!」
苦しそうに歪んだ顔に汗が伝う。
可愛そうに、と呟いてハンカチを渡してやる。
やはりそれも捨てる。
素直じゃないですね、と言うと劉魂はまた睨んできた。
使用人の煉が食事と飲み物を持ってきた。
それを劉魂の傍に置くと、何もいわずに部屋を出て行く。
自分も他の散らばった物は全てそのままに、部屋を出ようとする。
「ああそうだ。兄上、お大事に。…また来ますね」
目が「もう来るな」と告げている。
それを見てクス、と笑うと扉を閉めた。
私は知っています。兄がこの後飴を食べて泣いていた事。
私は知っています。兄がこんなにも私を嫌うのは生かしていてくれているから。
私は知っています。兄はまだ生きていたいのだと。
そうそれは声が、枯れるまで
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