ある日の、事だった。
それは彼女、リン…いや、ジャックを見つけて会いに行った、その三日後。
人が呼んでいると聞いて行ってみれば、そこにはムスッとした顔のジャックが立っていた。
「…帰ってくる気になったのかい?」
「…話がある」
少し、目を細めた。
話?この自分のことが大嫌いなはずの彼女が?
なんだか、楽しいことになりそうだった。
静かににっこりと笑うと、そっとジャックに手を差し出した。
「お手を、お姫様」
ジャックはその手を冷たく、無言で弾いた。
「それで…ご用件はなんだい?」
カチャ、と紅茶を入れながら、せわしなく部屋の中を見回しているジャックに声をかけた。
ジャックは酷く嫌そうな顔をして行った。
「俺の所にくるな。もうほって置いてくれ」
「酷いな、ジャック君たら。流石のオイラでも傷付くよ?」
「…そのまま死ね」
目が本気だ。彼女なら腰のナイフでそのまま殺しにきそうだ。
…まぁ、そんなのにやられる自分ではないが。
苦笑して「愛のこもった」紅茶をジャックの前に置いた。
…本当は、「愛」なんて入れたくはなかったのだが。
「わざわざ来てくれたから期待してたのに…いつオイラの物になってくれるんだい?」
その問いかけへの答えは、なかった。
嫌そうな顔が全力で否定しているようにも思えた。
彼女の好きなアッサムティー。
一口だけ口に含み、ほっと一息吐く。
飲んだ。確実に。「愛」を。
はは、と少しだけ笑って
「無理やりでも、いいんだよ?」
…そう言った。
つかの間の沈黙。
彼女は目を見開き、そのまま床に倒れこんだ。
ガシャン、と大きな音を立ててカップが割れ、残りの紅茶が床に飛び散る。
「油断はいけませんよ…ジャック君」
彼女を見下ろしてゴンザは言った。
その目は酷く冷たく…歪んだ笑みを口元に湛えていた。
完全に意識のなくなったジャックを抱き上げ、一つ口付け。
「おかえり、リン」
(これからも僕が君を守るよ)
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