「隊長。…隊長?」
「ああ、ヴァルツ。丁度良かった」
ゴンザはそんな事を言ってヴァルツに針を渡す。
ヴァルツは何が何だかわからない様な顔をしてそれを受け取った
「なんですか。裁縫は出来ませんよ?」
「違う違う。ピアス開けようと思って」
そう言うとさらに首をかしげる。
「…ピアス…ですか?」
「うん。手伝ってくれればいいから」
「と、言われましても…」
ブツッ!嫌な音を立てて耳朶に穴が開く。
「た、隊長…痛くないのですか」
「だから、ピアスって言うのはこういうもんなのー」
ムス、と頬を膨らませ耳から血を流しつつゴンザは言った。痛みで少し不機嫌になる。
ヴァルツはめずらしくオロオロとして、ティッシュを探している。
「どうも軟骨にあけるのに力入らなくてさ。グッて押してくれるだけでいいよ」
「り、了解いたしました…」
ヴァルツは恐る恐るゴンザの耳朶に触れ、力をこめた。
ブツッ…
「…あの、隊長。もう離していいですか?」
「え?あぁ、ごめん」
ゴンザはヴァルツの手を握り、まじまじと見つめていた。
骨ばっていて無骨な、筆まめだらけの手。
嗚呼、そういえばデスクワークを大量に押し付けたなぁ、なんて。
きゅ、と握ってから離し、小さく笑った。
「…手、暖かいんだね」
「隊長が冷たすぎるのかと、思いますが…」
「そう…だね。…ふふ、気が向いたから君の分も空けてあげるよ」
眉を顰めて、何がなんだかわからないような顔をする彼に、にっこりと笑いかける。
唇に、突き刺す。痛みと鉄の味。
垂れる血など気にはせずに、もう一刺し。
「ああ、痛い痛い」
「たいっ…何を!?」
「これが、君の分。こっちは…の分」
…ふ、と寂しげに笑う栗色の髪の男。
ヴァルツは何も言わずに、彼を見つめていた。
ゴンザは、懐かしいなぁと笑って、彼女の事を思い浮かべた。
あれは、いつのことだったか。
(色あせた記憶、だけれどそれは近い過去)
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