「何、あんたも来るの?」
「君も来るんだ。…邪魔はしないでね?」
「…そんなにやる気をなくさないで下さい。王からの任務なんですから」
ヴァルツは相変わらず苦労人である。
ゴンザはとにかく邪魔をしなければいいか、と溜息をつく。
「まぁいいよ。オイラは巫女を殺してジャック君を連れて帰る」
「ジャック…?誰だそれは」
「関係ないから言わない」
にぃ、と意地悪そうな笑みを浮かべてそういうとヴェルネは小さく舌打ちをした。
ふわりと薔薇が香る。
最近気がついたのだが、魔力を使うと薔薇の香りがするのだ。
「おや、大当たりだったみたいだね」
目を少し細めて笑う。
写真の少女、破妖部隊の人々、そしてうずくまり此方を睨む「ジャック」。
「お久しぶりだね?ジャック君…」
「っ…た、いちょ…!!何で…!?」
何故見つかったのかという顔。あまりにも久しぶりなのでその顔さえも愛おしい。
そっとジャックに近付き、耳打ちをする。
「何でだろうね…ずっとずっと、探してたんだよ…?」
「畜生…っ!」
悔しそうにぎり、と歯を食いしばる。
ゴンザは小さく微笑んで、巫女…舞に向き直る。
舞は何が何なのか、という顔をしている。
まぁ確かに知らぬ人物が行き成り現れればしょうがないが。
「始めまして巫女さん。オイラはゴンザ、ゴンザ=リスエドです。まぁ以後よろしく…」
小さく微笑み左手を差し伸べる。もちろん利き手ではない
風で髪が舞い上がり紅い眼が晒される。
眼を、みたからだろう、彼女は少し戸惑っている。
舞は恐る恐る手を伸ばしてきた。
後ろ手に鎖を持つ。
「は、はぁ…よろし―――」
『ねぇ、君の血は綺麗…?』
目の前を鈍い銀の風が過ぎる。
舞は眼を開いて…其れだけだった。
…当たらなかった…?
「おやおや残念…」
後ろにいる女…――クィーン、だったか?――が、舞の襟を掴んでいる。
どうやら危険を察知して舞の腕を引いたらしい。
目を細めて軽く睨むとクィーンは一歩後ずさりした。
「あ、あの…」
「…巫女サンは下がってて」
「オイラ、君たちにはあんまり用は無いんだけどな」
ふぅ、と小さな溜息をつく。…面倒だ。
皆殺しにしてもいい(むしろそれが命令なのだが)、けれどそうも簡単に殺されてくれるはずがない。
チラ、とヴァルツ達の方を見るとヴェルネが嬉しそうにニヤリと笑った。
「…じゃあそっちの子達は?」
クィーンもチラ、とヴァルツ達の方を見た。
…どうやらばれてしまっていた様だ。
「お兄、バレバレじゃんか」
「…御前のせいだろうが…」
はぁ、とヴァルツは溜息をついた。
どうやらヴェルネは待ちきれず殺気を放っていたらしい。
心地がよすぎて気がつかなかった様だ。
「…で、隊長はどうするんですか?」
「オイラは…ジャック君との再会ついでに誘拐しとこうかな」
さらりとそれだけ言うとジャックに向き直る。
ありがたいことに皆ヴァルツ達に眼が行っている。
「じゃ、あたしらは任務遂行っと…久しぶりだから綺麗に殺せないかも」
ヴェルネは眼に狂気の色を浮かべて構えた。
ヴァルツも珍しく腰の拳銃に手を遣る。
向こうの人々もなにやら色々構えている。(まったくと言って良いほど興味がないが)
それを一瞥だけすると、ジャックに歩み寄る。
そっとしゃがみこみ、頭を抱えてうつむくジャックの顎を掴み、此方を向かせる。
「久しぶりだね。…ずいぶんと、大きくなった」
「お前、何で…っ!」
「さぁ、何でだと思う?」
骨ばった細い手首を掴み、立ち上がらせる。
踊るようにくるりと回り、後ろから抱きしめた。
「ちゃんと食べてる?細すぎるよ。でも、肌は凄く綺麗…」
「お前には関係な…っ!?」
べろり、と舌をうなじに這わせると、ジャックの体が震えた。
両手首を掴み上げたまま、するりと腰を撫でる。
「まだ、耐性出来てないってことは、男で通してるみたいだね」
ク、と顎を掴み上げて首筋に軽いキスをする。
「離せ…っ!」
「一度手放してオイラは後悔した。…いま、逃がすと思う?」
にぃ、と笑ってジャックの艶やかな唇に口付ける。
逃がさぬよう腰に腕を遣って、抱きしめる。
深く、深く、キミを求めて、求めて。
きっとこんな事は初めてなのだろう、顔を紅くしてぐったりと腕の中に倒れこむ。
そんな彼女を見て、嬉しそうにまた嗤う。
(やっと触れた、やっと、やっとやっとやっと。)
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