「隊長、もう気分は宜しいのですか?」
「ん、ばっちり」
ニ、と笑ってブイサインを出す。
「じゃあ、すぐに仕事が出来ますね」
ヴァルツは珍しく小さく微笑み、書類を机に置いた。
…彼が笑うのはこういう時だけだ。
多くはないものの何やら厳密な書類のようだ。
ぎし、と軋む椅子に腰掛ける。
ヴァルツは器用に糸を解き、中から紙束を取り出した。
「何?」
「王からです。ギレスイードの破妖隊…の部隊員の詳細ですね」
紙束が机に置かれた。
机の中にある眼鏡を取り出し、掛ける。
一つの束をつかみ、紙をめくった。
「敵国の?何、戦争でもする気なの?」
「さぁ…王から直接の依頼ですので…」
王が暗殺部隊を使うなんてこの国も末期だな、と思う。
気だるそうに頬杖を付き、紙をめくる。
ご丁寧に写真やら年齢やらまで載っている。
数ある破妖隊の中で一番気になったのは「トランプ」と言う部隊。
名の通り部隊員は皆トランプの名前だった。
部隊長はキング。どうやら国王の弟らしい。
「…あれ?…巫女?誰これ」
「…さぁ…とりあえず一番注意すべきはこの少女のようですね」
見た目16~17。若いのに可哀想な事だ。
まぁどうでもいい。
いつものように美しく、俊敏に、殺してしまえばいい。
「オイラに狙われて生きてた人なんていないんだから」
ぽつり、と自分に言い聞かせるようにそう呟く。
パラリと紙をめくる。クイーン。ジョーカー。エース。ジャック。
…ジャック?
青い髪を見たとたんめくっていた手が止まる。
黒いヘアバンド、輝く青い髪で隠された右目。
頬には傷の痕が残っている。
一見男のようにも見えるが、華奢な細い首は女のものだ。
…彼女、だ。彼女はギレスイードに逃げていたのだ。
相変わらず澄んだ一直線の蒼い目は、何か新しい「心」をつかんだように見えた。
「どうかいたしましたか?」
「いやぁ…探していた人が、いてね。で?いつ彼らに会いに行くの?」
「…明後日、ですが」
意外と早いな、と少しだけ嬉しく思い、にぃ、と口角を上げる。
椅子から立ち上がりもう必要のない書類を投げ捨てた。
「じゃあ早く準備しなきゃ。…あ、椅子うるさいから変えといてくれる?」
「…了解いたしました」
ヴァルツは文句も何も言わずペコ、と頭を下げた。
邪魔臭く散る書類は、煩く軋む椅子の上に舞っていた。
(やっと会える、僕のイトシイヒト)
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