「こんにちは。ゴズさん。電話したのはオイラです」
軽く会釈してにこ、と微笑みかける。ゴズはいぶかしげな顔をした。
「どういうつもりだ。金か?…あんな事を言って」
「違いますよ。とりあえずご飯にしません?お腹空いたんで」
ずかずかと承認を得ずに入り込む。
キッチンはどこか、だとかは知っている。昔住んでいたのだから。
どうやら彼はゴンザが息子だと気付いていない。
当たり前だ。あの時からもう…何年だっていいや。
とにかく、時が経ち過ぎていた。
カパ、とバスケットが開く。
中にはハンバーグとローストビーフと…肉ばっかりだ。
ちなみに調理はヴァルツに頼んだ。…今度から頼まないことにする。
「はい、どうぞ!」
皿に盛り付け、ハートが飛交わんばかりの笑顔で手渡す。
ハンバーグは痺れ薬。体が痺れて、逃げられない様に。
ローストビーフは致死量に満たない毒。助けが呼べないように。
他は…なんだったか。めんどくさいので覚えていない。
何をとるにしても、仕上げは自分がやってあげるから。
彼は疑っているようだったが何も考えずローストビーフに手を伸ばした。
そしてゴンザの事を気にかけながらそれを口にした。
「ふむ…悪くないな」
「美味しいですか?父上」
にぃ、と口角を上げる。
彼は信じられない、という顔をした。
「…まさか…お前、ゴンザ…!?」
「おや、オイラの名前覚えていらっしゃったんですね。
父上のことだからまったく覚えていないかと」
ゴズは自嘲した。それくらいは覚えている、とでも。
「私の息子れ…」
「れ?」
くすくす笑う。そう、シュラを殺したあの時のように。
ゴズは脂汗をかいて胸元を抑えている。
毒が少しずつ体を蝕んでいくのだろう。
「貴様…何を…!?」
「毒を少々。おやおや、動けませんね。大丈夫ですか?」
わざとらしい悲しい顔をしてみせる。
ゴズは椅子から大きな音を立てて転げ落ちた。
「く、そ…」
「お、っと。あと三分しかない」
腕時計は午後六時三十分を差している。
…確かあと三分だ。
と、一分もしないうちに爆発音がした。
「あれー?…おかしいなぁ…ま、いっか」
「今の、音は、何だ…!」
途切れ途切れにそう言って、絨毯の上を這いずり、こちらに近寄ってくる。
ゴンザは笑いながらその手を踏みにじった。
ゴリュ、といやな感触が足に伝わる。
「父上。もうすぐお別れの時間です」
その時、喧しいほどに電話が鳴っていた。
(最後のコール。それは愛するべき人からの死の電話)
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