「あーあー…ハロー?リスエドさんのお宅でしょうかー」
片耳を指で塞いで受話器に話しかけ、返事を待つ。
返ってきた返事は少ししゃがれた男の声だった。
双眼鏡を覗く。かなりよく見える。
目線の先には目標の豪邸…と言っても古ぼけた家なのだが。
その窓の向こうに見えるのは電話に出る老人。
どうやら奴が主人のようだ。みている限りメイドは出かけているらしい。
じゃなければ主人が電話に出ることはあまりない。
丁度、都合が良い。まぁどうせメイドが居たとて皆殺しなのだが。
「今日は一人のようですね」
『…なぜそのことを知っている?』
探るような問い。無論答えはしない。
「今から、夕飯を持って遊びに参りますね。…法を犯したゴズ=リスエドさん…」
くすくすと笑って電話を切った。
多分焦りが植えつけられたに違いない。
人体実験は法で禁止とされている。
…王自体が犯してしまってあまり意味が無いような気もするが。
さて、と息をついてバスケットを持つ。軽い…多分。
中身は毒を仕込んだ料理などが沢山詰まっている。
ゴンザはそれを持ったままひょこひょこと歩き始めた。
重い鉄の門。あの時と何も変わっていない…大きな屋敷。
あの時はメイドたちが走り回って…少しだけ騒がしかった。
けれど今は静かな…老人しかいないだだっ広いだけの家。
この家には小さな頃の思い出が詰まっている。
ジェイドとの。メイドたちとの。…母、との。
けれど今はもう要らない。
後ろを振り向く暇があるなら、沢山人を殺していたい。
あの時と今とは違う。
もう、ただただうずくまっていただけの自分ではないのだ。
歪んだ。狂った。そして幸せになった。
今時分は幸せだ。泣く暇など無いほどに。
ゴンザは外壁の片隅に座り込み、時計を置いた。
この時計は時限爆弾。仕入れたものを改造した特別なもの。
リミットは一時間。
カチ、とスイッチを入れて立ち上がり、背伸びをした。
「さてと、狩りに行きますかー」
その日の空は果てしなく青い、雲ひとつ無い青空。
この青空が赤く染まるのを楽しみにして、ゴンザは大きな扉を叩いた。
(そう、気分はまるで黒い、黒い…死神のように)
PR