彼女の覚えていることは断片的だった
ゴンザという名前…それはとりあえず親しい人の名前だということ
父に実験をされたということ
自分は、人だということ
なぜ、記憶が無くなったのか?
それはまだ分からない
それでもずっと彼女を護るという志は変わらない
暗殺部隊との出会いはその次の日だった
暗殺部隊というのは…
文字通り、敵国の戦士等を暗黙に殺したりする部隊で
余り良い印象は持っていなかった
一度会ったことのある元隊員は狂ったように無差別殺人を繰り返していたからだ
今ではきっと刑務所の奥にいるのだろうが
とにかく自分が入るなんて思いもしなかった
大柄の男が部屋に急に入ってきて暗殺部隊の寮に二人を連れて行ったのだ
大柄の男はウィルといった
ウィルは暗殺部隊をまとめる隊長で、信頼が厚かった
自分は彼女の名前を言わなかった
姫だと分かれば大問題だからだ
…まぁそれで王達が困るのならむしろ万々歳なのだが…
一応、念の為
彼はリンに新しい名前をつけた
ジャック
由来は適当
とある部下がスペードのジャックを無くしたかららしい
リンは意外とその名前が気に入ったらしい
「ゴンザ、ジャック。
今日からお前らはこの暗殺部隊の一員だ。良いな!?」
ウィルはそういって自分たちに気合を入れた
恐る恐る頷くと満足そうに笑って、ガシガシと二人の頭を撫でた
…撫でた、という表現が正しいのか分からないほど乱暴だったが
彼の爽やかな笑顔と大雑把な性格が好きだった
…自分とまるでま逆のようで
好きだけど、嫌い
でも愛しい人には変わりなかった
…そう思ってはいけないと思いつつ
心は留まってはくれなかった
嫌われるのがいやだったから
こっそり抜け出してカラーコンタクトというものを買った
赤を隠すために
リン…ジャックの瞳の色とおそろいになるようにした
前髪を伸ばし、右目を隠した
見つかったときはジャックとお揃いなんだとはぐらかそうと思った
(嫌われたくない。これ以上僕を見捨てないで)
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