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2022/02/12
チョコレートを食べる勅使沈黙
セルゲイがコーヒーとかカカオに弱かったらかわいいなあ








「過去、チョコレートは媚薬であると信じられていたそうだ」

ワークマンがふと思い出したという風に呟いた。
巨大な身体を持つ彼からすればあまりにも小さい箱に納められたチョコレートを一粒、潰してしまわぬようにやわく摘まむ。

「コーヒーのように興奮作用があるからだろうな。それに、甘い」

鮫のように尖った凶悪な歯が小さなチョコレートを噛み砕く。
甘い指先を舌で拭い、目線は自然と会話している相手へと流れて行った。

「そういえばお前はコーヒーも苦手だったか」
「……」

返答はなく、ひうひうと掠れた吐息だけが聞こえてくる。
チョコレートを嗜むワークマンの傍らには顔の赤いセルゲイが寝そべっていた。
普段顔の半分を覆っている黒いマスクは呼吸確保のために取り払われており、いくつもの古傷と柔らかい髭に囲まれた唇は薄く開閉を繰り返している。

「毒には耐性を付けたというのに、こんなちっぽけな甘味でそうなってどうするんだ」

無機質な青い瞳は血色よく潤み、覗き込むワークマンを静かに見上げた。
唇からは熱い息が漏れ、ふらりと揺れた右手は胸元を握る。倦怠感が酷いのか、寝そべったままむずがるように身じろいでは息を吐く。

ワークマンはそうやって興奮をやり過ごそうともがくセルゲイを映画鑑賞するかのように眺め、また一粒のチョコレートを口に放る。
口角はゆるく上がり、どこか嘲るような笑みが浮かんでいた。

「まあ、お前を見るに媚薬というのはあながち間違いではないようだが」

言いながら、震えるセルゲイの口にもチョコレートを一粒。
されるがままのセルゲイはなにも文句を言わずワークマンの施しを享受した。
半ばで焼き切れた短い舌が吐息を伴ってチョコレートと指を迎え入れ、かさついた唇が太い指を軽く吸い上げる。
いかにも、房事を連想させる行為だ。彼に散々仕込んだ技術が反映されていると思った。
カロ、とチョコレートがセルゲイの口内へと消えていくのを眺めたワークマンは満足そうにくふくふと笑みを漏らす。

「うまいか」
「……」

返事はないが、蕩けた表情が物語っていた。
もう一粒、と小箱を見やるが、セルゲイに与えたものが最後だったようだ。
ちら、とセルゲイを見る。従順なセルゲイの震える唇を軽く指で開いてやると、覗いた口内には噛み砕かれずゆるやかに融けていくばかりのチョコレートが見えた。

衝動的に背を丸め、唇を合わせ、吸い上げた。指先までも淡く赤いセルゲイの手がワークマンの服をすがるように掴む。
口付けを続けながら背中に腕を回し撫でてやると、細い身体は素直に感覚を拾ってびくりと跳ねた。
チョコレートはとうに溶けきって甘さがどうでもよくなってきた頃、ようやく唇を離す。

「うまいか」
「……」

満足そうなはふ、と熱い息が返事の代わりだった。

「愛らしいなあ」

思わず頬擦りまでしてしまった。普段ならセルゲイもすり寄ってくる所だったが、なにやらもじもじしている。

「どうした?……」
はた、と気付く。

「口付けだけでイッたのか?」

いつも従順に目を合わせてくる彼が初めて目をそらす。
そんなセルゲイをみたワークマンは、思わず呵々と声を上げて笑った。

「よく効く媚薬だ」


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