2022/01/28
相棒のクリエイターと恋人のダークランサーが仲良くなって、疎外感を感じるダークナイト。
「そのリップ、かわいいね」
趣味の本を持ち寄って集まったダークナイトとクリエイターの所に、ダークナイトの"好い人"であるからと言うだけで同席したダークランサー。
知り合いから借りたのだと言う本を置いて、それからは二人を大人しく眺めていただけだった彼の久しぶりの言葉がそれだった。
読書趣味のないらしい彼がこの読書会にやって来て何が楽しいのかと思うが、ダークランサーは黙って本を読む二人を眺めるだけで楽しそうだった。
でも、ついに焦れたのだろうか。
言葉に反応してぱっと顔を上げると、静かに本を読んでいたクリエイターもまた大きなメガネの奥の目を真ん丸にしてダークランサーの方を向いていた。
「艶感がすごくいい。どこのやつ?」
ダークランサーは自然な笑顔で頬杖を付いている。
ダークナイトには目を向けずクリエイターを見つめているので、どうやら本当にクリエイターにだけ話しかけたようだった。
「え?ええっと……リップですか?」
「うん、リップ。朝見たときも気になってたんだけど、ずっとかわいいから気になって」
話しかけられたことに驚いてぱちくりしていたクリエイターは、そこまで聞いてぱっと明るい表情を浮かべた。
「えへへ。これ、先日エテルナに渡航した時に見つけたコスメショップで一目惚れして買ってしまったんです。クイーンビー由来のハチミツが使われているとかで」
「へえ、エテルナ!コスメショップなんかあったんだ」
クリエイターは開いていた本をあっさりと閉じてしまい、嬉しそうに前のめりになる。
「今持ってますよ、見ますか?」
「見る見る」
きゃあきゃあと明るくはしゃぐ二人は、まるで親友の女二人が集ったときのように盛り上がっている。
ダークナイトはそれを尻目に再び本へ視線を下ろしたが、相棒と相方が楽しそうに話しているのが気になって読書に集中出来そうになかった。
「私も気になってたのだけど、アイシャドウのラメが繊細ですごく綺麗です。どこのですか?」
「え!嬉し~。俺あんまりブランド気にしないで気になったやつ買うタイプなんだけど、これはヒルスのとこで見つけたやつなんだよ」
「ヒルス!お高そうですねえ」
あるいは姉妹のようにも見えてしまい、目を擦る。
華奢で愛らしい少女と自分よりも背の高い男との組み合わせだと言うのに。
会話の内容が化粧品だからなのだろうか。私にはよくわからない分野だ。
「よかったらこのリップ付けてみます?」
「かわいいけど、俺にオレンジ似合うかな……挑戦したことないんだよね」
「きっと似合いますよ。彼に見せてみましょう」
ひそひそと囁き会う姿は少女たちの密談のようだ。小さな声だったので、ダークナイトには聞こえなかった。
二人の会話なんてなにも気にしていませんよ、という風に本に目を通しているふりをしているだけで、本の内容など全く読めていない。
気もそぞろにページを捲って、鏡を覗き混んできゃあきゃあはしゃいでいる二人の歓声を聞く。
「ね?透け感があってすぐ馴染むんですよ。ああ、本当にかわいい!」
「ホント?ホント?へはは、やったあ。ねね、お前はどう思う?」
――会話を聞いて、ほんの一秒。
まさか自分に声をかけたのかとチラと視線を上げると、キラキラと目を輝かせた相棒と相方が期待した様子でこちらを見つめていた。
思わずびくりとして、脳内で先ほどかけられた言葉を思い出す。……お前はどう思う?
「ど……どうとは」
「なんか感想とかない?」
そういうダークランサーの唇は、会話からしてリップを塗ったのだろう。
うるうると瑞々しく、もぎたての果実のような艶があった。隣にいるクリエイターもそうだ。
二人とも、ものすごく期待しているようなワクワクした顔をしている。
「……門外漢だから、分からん」
言葉を選びに選んで悩んだ末、ぐっと表情を固くしてそう言うと、二人揃ってため息を吐いた。
「お前それはないだろ」
「あなたにはがっかりよ……」
そこまで言うか?だって可愛らしいのが増したとして、それをどうやって言葉にすれば良いのだ。
「……に、似合ってると、思うぞ」
「言うのが遅い!減点!」
「最初に言っておけば満点だったのに残念だわ」
……今さら何を付け足したとして手遅れのようだ。手厳しい。
「かわいいね❤とか言えばいいんだよ。それだけで満足すんだからさ」
「……今後、気を付けよう」
こうだからダークナイトは。そういう機敏に鈍い男なんですよ。
相棒と相方の文句を聞きながら、二人の架け橋であるはずの俺は苦々しい顔で本へと目を落とした。
いくつも展開を見落とした先のページは、内容がよくわからなかった。
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