2022/01/27
浸食で味覚が死んでるダークランサーと、それに気付けないダークナイト。
「うまい」
ダークナイトが作ったのだといういかにもな男料理を頬張って、ダークランサーは嬉しそうに目を細めてそう言った。
だが、実のところそれは身に付いた礼儀に従った言葉に過ぎなかったので、本当は味がどうかなんて分かってはいなかった。
結局のところ、闇に犯された味蕾はなにも伝えてはくれないのである。
「酢が強くないか?本の通りに作ったんだが」
「いや、うまいよ。ありがとな、俺なんかのためにさ」
それでも、好い人がわざわざ作ってくれたその気持ちが嬉しいのだから、味がわからなくてもそれは「うまい」のだ。
ダークナイトは自らの料理にぶつくさ言いながらも、嬉しそうに食を進める俺を見て頬を緩めた。
「……少し緊張していたんだ。お前は料理も上手い。舌が肥えているのではないかと思ったが」
「別にそんなこたないよ。俺も本通りに作ってるだけ。本のまま作れば本の通りの味になるからね」
「ふむ……」
気まぐれに凝った料理を作ったりもするが別段興味はない。どうせ見た目と栄養が違うだけでどれも全部同じ味なのだし。
そんなつまらないことをわざわざ言葉には出さないものの、ダークナイトは俺が料理好きではないのをなんとなく察知したのかもしれない。
きょろ、と赤みがかった黄色い瞳を彷徨わせて、気まずそうに水を飲む。
「……私は、好きだが。お前が作る料理」
「そう?なら作るかいがあるね。ふふ。俺もアンタの料理が好きだよ」
これは本心からの言葉だった。
味というものを伝えてくれなくなった舌と長らく付き合ってきたが、彼の手料理を食べた時、本当に本当の久しぶりに味がしたような気がしたのだ。
——気がしただけだ。それでも。
「うまいよ」
噛みしめるようにそう言って、もったいぶっていた最後のひとくちを舌に乗せた。
PR