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2022/01/28
意識しないと力加減が出来ないワークマンと迂闊に怪我させられることに慣れてるセルゲイの話






用事を済ませ立ち去ろうとしたセルゲイの腕がワークマンの手で引かれた瞬間、コクン、と肩の関節が外れる音がした。
あまりにも突然の事だったので、腕を引いた主であるワークマンも肩が外れてしまったセルゲイも目をまん丸く見開いてしまった。

「す、すまん」

ワークマンは慌てた様子でパッと手を離した。セルゲイは数秒驚きに固まって、その後何でもないような顔に戻る。
気にしていない、という風にワークマンを見上げているが、外れた左肩を右手で軽く押さえていた。

「悪かった。ただ……ただ、もう少し話したいと思っただけで」

その言葉に先ほどとはまた別の驚きがあったのか、セルゲイはキョトンとした顔でワークマンの顔を見上げ、じっと見つめた。気まずそうな顔には普段の厳格さがない。
その様子がなんだかおかしくてセルゲイは吹き出してしまった。今さらだと思ったのだ。

師匠たる彼には今までに腕も足も折られたし、なんなら命の危機に陥るまで痛めつけられたこともある。
それはもちろんセルゲイが強くなるための修行での一幕ではあったが、それに比べれば肩の脱臼なぞかわいいものだ。

クスクスと漏れるような笑みは、ツボに入ってしまったのか思わず腹を抱えてしまうくらいの笑いへと昇華していった。
声もなくひくひくと肩を震わせるセルゲイに呆気に取られていたワークマンだったが、笑われすぎていくらなんでもという風に眉を寄せる。
セルゲイはそんな彼にひらひらと手を振って、ぶれる指先で空中に魔力による文字を綴った。

「(気にしなくていいし、気にしてない。私も少し名残惜しいと思っていたものだから)」

それは少しの世辞というか誇張も入っていたが、まあ本心ではあった。
手慣れた様子で外れた肩をポクンと直し動かしてみせると、そこでようやくワークマンは安心したようにほっと息をついた。本当に大したことはないのだと分かったのだろう。

「折れてはいないか?」
「(大丈夫)」

これくらいの痛みは何でもないし、そもそも脱臼程度なら痛みの一つにもカウントされないくらいだ。セルゲイはゆるりと目尻を下げて、ワークマンの顎をするりと撫で上げた。
限界まで加減をしているな、とすぐに分かるくらいに優しい手つきでその手を握られたので、体温の高いその手を引き寄せて頬擦りをする。

「(何をされたって良い。私は貴方の弟子なのだから)」
「馬鹿を言うな。……悪かった」
「(なんなら、昨日付けられた腰の手形もまだ消えてない)」
「悪かった!」

ひときわ大きな声で謝りながらさっと頬に朱を走らせたワークマンを見上げ、セルゲイはまた吹き出して音のない笑い声を上げた。


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