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2019/12/20

セルゲイが部下にアナルクリームなる媚薬的なものをもらってしまう話。
R18まではいかなかったがすけべな題材なので注意。
食事の二人の差異が書きたかっただけなのに……。




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とある部下が闇市場で取引されていたので略奪してきたのだと自慢していたのだが、その品というのがなんとアナルクリームなるアダルトグッズであった。困惑。

そしてそれが今、セルゲイの目の前に置かれていた。シリニヌル……実に直球な名だ。
アダルトグッズの類いは娯楽に乏しい魔界ではままある商品ではあるものの、こういう媚薬に分類されるものはどれも眉唾だとセルゲイは思っている。
いや、利用したことなどないしする予定もないのだが。

「確かここに置いておいたと……セルゲイ様!?」

手にとってまじまじとパッケージを観察していたところ、件の部下が戻ってきて驚愕の声をあげた。部下たち皆の揃いのフードとマスクで表情はろくに見えないものの、とても狼狽えているのがわかる。

「あっあの……それは……その……今夜使おうかと思って……」
「は?」
「昨日も使ったんですけど!俺も相棒もとても良かったので今夜もと思って!!!」

なぜ性生活を暴露されてるんだ?彼の相棒というと……赤毛の剣士だったか……いや、どうでもいいのだが……。
困惑したまま黙ってクリームを返すと嬉しそうに受け取って、ハッと何かに気付いた様子で顔を上げた。

「……あ!取り分けますんで!!是非セルゲイ様もどうぞ!!」

え、いらない……。欲しくて見ていたわけじゃない……。良い部下ではあるのだが、残念ながら師匠のように黙っていても察してくれるほどの技量はない。
彼はウキウキの様子で棚からコインほどの小さなケースを取り出し、ナイフで掬ってせっせと詰め替え始めた。
困った。



――で、結局身振り手振りで断ったのに押し付けられてしまった。
一瞬だけ暗殺班にチクってやろうかなどと思ったが、わりと有能な彼をこんなくだらないことで失うのも残念なので飲み込むことにした。
こんなものどうすれば良いんだ……捨てるのも部下にアレだし……。ひとまず、ポケットに詰める。あとでどこかに隠すとしよう。

とぼとぼとワークマンの執務室へ向かう。食事に誘われたので、仕事が終わり次第ワークマンの執務室で落ち合うことになっていた。
次元の亀裂を経由してすぐ向かってもよかったのだが、なんだかクリームをねじこんだポケットが重たく感じたのでひたすらとぼとぼ歩いた。
途中すれ違った暗殺班のスニフ=ケイが不思議そうな顔をしていたのだが、彼にすらわかるほど疲れた顔をしてしまっていたのかもしれない。すこし引き締める。

執務室前に着き、セルゲイはひとつ深呼吸をしてからノックをした。
「入りなさい」すぐに返事が返ってきたのでドアを開ける。ワークマンはいつものように執務室の机に座り、まだ書類を片付けているようだ。

「……すまないがちょっと時間がかかる。すこしだけ待ってくれ」

悲しいことに今日も彼は忙しいらしい。組数の多い略奪班の総括であり首長サルポザ様の参謀でもあるので、彼の仕事はいつだって無限に湧き出してくる。
なにかしら手伝えればよかったのだが、残念ながらセルゲイは書類仕事には向いていないようだった……。

仕方がないので、いつも通りソファに座って待っていよう。ワークマンの執務室にある尻が沈みこむほどの良いソファは、セルゲイのお気に入りだ。そう思い重たいコートを脱ぎソファに引っかけたときだった。
コトン!ポケットから飛び出した例のクリームが音を立てて床に落ちた。
――よりにもよっていま出てくるな!慌てて拾い上げポケットにねじこむ。心臓が破裂するかと思った。

いまの様子を見られてはいまいかとバッとワークマンの方を見ると、いまだ書類の山に夢中でこちらを見ていない様子。彼が仕事人間で助かった。
ふー……と小さくため息を吐き、気を取り直して今度こそちゃんとソファに座る。

アダルトグッズを持ち歩いてるなんて彼に知られたくはない。たとえそれが押し付けられたものだとしても。やっぱり途中で捨ててくれば良かった。
そりゃあ好き合っていると思っているし、愛し合ってもいるだろうし、やることだってやっている。最近になってようやく彼との性行為に慣れてきて快楽を拾えるようになったところなので、下手な手は打ちたくない。

もんもんと考えながらソファにうずくまっていると、ペンを置く音が部屋に響いた。
終わったのかと頭をあげると、すでに近くに来ていたワークマンがコートをまさぐっていた。
いや早いな!?というか気付いてたのか!!

「さっき落としていたのはこれか?」
「――!!」
「……これは……?」

ワークマンの大きい手に乗っている小さなクリームケースは、普通に見るよりますます小さく見えた。そんなちっぽけなそのケースがいまセルゲイの首を絞めている。
不思議そうな彼にかけより大きな手を取って指で文字をなぞった。
意味のある言葉を発することが出来ないため、どうしても伝えたいことがあるときはこうするしかない。魔力で文字を綴ってもよかったのだが、動揺している今マトモな文字が書けるとは思えなかった。

「(押し付けられただけ。本当)」
「押し付けられた?」
「(欲しくて手に入れたわけじゃない)」

必死すぎてスペルミスも多かっただろうが、師匠ならばわかってくれるだろうと言い訳を繰り返す。師匠ははじめは困惑した様子で解読に勤しんでいたが、だんだんと難しい顔になってセルゲイの腕をつかんだ。

「これは毒なのか?」
「ッ」
「誰に持たされた。誰に盛れと言われた?」

――しまった、これがアダルトグッズだと分かっているのは今は自分だけなんだった。
思わず目を見開いて、怒ったときのように厳しい顔のワークマンを見上げる。というか、怒っている。背中をいやな汗が伝うのが分かった。
本当は恥を隠そうとしただけのつまらないことなのに、誰かの毒殺計画が持ち上がっているのではないかという疑惑にまで発展してしまっている。

「ぃ……」
「言え。……言わねばどうなるか、お前ならわかるだろう」

ゆるり、とワークマンがアビスの移植された右腕を持ち上げる。セルゲイは長らく彼の弟子をやっているのでその折檻の辛さはよく知っていた。ひゅ、と息を吸って体を強張らせる。
そうして、折檻の辛さと恥を曝け出す辛さを天秤にかけ、天秤は折檻の辛さに傾いた。

「(アダルトグッズ)」
「なに?」
「(部下にアダルトグッズをもらった)」

「……すまん、もう一度、ゆっくりきちんと書いてくれ」

うってかわって、まるで理解が出来ないというような苦々しい顔。
セルゲイはきっといまの自分は顔が赤いんだろうなあなんて思いながら、もう一度、ゆっくりと、これはアダルトグッズなのだと伝えた。尻に塗るものらしいのだと。

「……なぜ、そんなものを」
「(押し付けられた)」

それっきり、途端に部屋は静かになった。自分は元々無口だし、師匠も無駄にたくさん話す方ではなく、必要なことだけ話すタイプだが……。
慣れているはずの沈黙があまりにも痛い。
ふしだらだと思われてしまっただろうか。肉体関係があると言えど、二人ともそういうものに手を出すくらい奔放でもない。

「……まあ、毒ではないなら……いい。だがこれは没収しておく」
「(棄てて)」

懇願するように文字をなぞって、手を離す。セルゲイは寄ってしまった眉間のシワを揉みほぐして、熱い頬を軽く叩き、ひとつため息をついた。
ワークマンもまた同じように、眉間を揉みながら大きなため息をついていた。

「ともかく……食事にするか」

こくんと頷いて、セルゲイは次元門を開く。ワークマンは慣れた様子でその中へ姿を消し、セルゲイもその後を追って次元門へと飛び込んだ。
今夜の行く先はカシュパ傘下のレストランだ。




セルゲイは顔の下半分を覆うくらいの大きなマスクをしているが、口元は開けるようになっているので食事は可能だ。
しかし、ファスナーの歯が少し邪魔になり大きな口は開けないし、アビスの移植は声だけではなく嚥下にも多少影響を及ぼしている。故に、セルゲイの食事は常人に比べるとだいぶ遅い。

うって変わって、ワークマンの食事はすぐに仕事に戻るための効率よく素早い摂取に慣れているためかかなり早い。
普段のように片手間に食べられるサンドイッチ等をすごい速度で食べるのは分かるのだが、今日のようなテーブルマナーの必要な食事でさえマナーは完璧のまま瞬きの間に料理が消えていく。

今日も例に漏れずその様相で、セルゲイはまだメインディッシュの肉を切り分けちまちまと口に運んでいたが、ワークマンは早々に食べ終えて食後のコーヒーを嗜んでいた。
料理の量は圧倒的にワークマンの方が多かったはずなのだが……。いつも不思議だ。

「お前は」

気まずかったためか食事の間ずっと無言だったのだが、ワークマンが話を切り出したのでセルゲイはナイフを持つ手を止めた。
咀嚼していた肉を飲み込み、きょとんと瞬きをして言葉を待つ。ワークマンはなんだか言い出し辛そうにもごもごとして、言葉を選んでいるようだった。

「……欲求不満だったりするのか?」

食べている最中だったらきっと吹き出してしまったのではないだろうか、と思った。ちゃんと飲み込んでおいて良かった。
それでも息を吸うのに失敗したし、そのままの流れで勢いよく咳き込んでしまった。
噎せているセルゲイを心配そうに見ながらも答えを待っているワークマンは真剣そのもので、からかいの冗談ではないことはすぐに分かる。でも、真剣でもなんでも聞いてほしくなかった。

「(あれは押し付けられただけ)」
「あんなものを押し付けられるくらいにはそういう話をしているということだろう?」
「(いや)」

してない……よな?魔法で空中に文字を書いていた手を止める。数秒考えて、いややっぱりしてないな、と結論付ける。

「(してない)」
「なんだその間は」
「(思い出していた)」

本当に?という疑わし気な視線が突き刺さる。本当なんだけどな。
複雑な気持ちで眉を寄せていると、ワークマンは一つため息を吐いてコーヒーカップに口を付けた。話は終わりなのだろうか。
勝手に終わりだと仮定するのもなんだが、食事はまだ途中だしということでまた手を動かして食事を再開する。

「まあ、使ってみればいい」

今度こそちょっと吹き出した。咄嗟に手で押さえたものの、テーブルクロスを少し汚してしまった。
あああ……サルポザ様もたまに来るような場所なのに。取り換えられるとは分かっているものの自分の気分は良くない。

「行儀の悪い子だな、セルゲイ?」

誰のせいだ。良い口実を見つけたと言わんばかりに目を細めて笑うワークマンを少しだけ睨みつけた。
ケホケホと咳き込みながら汚してしまったテーブルクロスを見やり、口元をさする。

是非セルゲイ様もどうぞ!
弾んだ声でクリームを押し付けてきた部下の言葉を思い出して、やっぱり暗殺班に頼もうかなあ、なんて思った。

「はしたないことだが……楽しみになって来たぞ」

――長い夜になりそうだ。とても。身体が持てばいいが。
なんだか随分と楽しそうにしているワークマンを見て、セルゲイはそっと自分の身体を心配するのだった。
欲求不満なのはどっちなんだ、なんて心の中で悪態を吐きながら。

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