羽根を持たない種族であるハルバートとケフロスだが、テイベルスの民であるために空を駆けることが出来る。
大昔には羽根もあったのだ。テイベルスの恩恵と加護によって、羽根がなくとも飛べるようになったからなくなっただけで。
美しき狐のそうでもないほう。ふたりの狐の黒いほう。
同族であるハルバートが美しすぎるあまりに過小評価されがちなケフロスには、背中に小さな羽根の名残が残っていた。
故に不完全だとして、過小評価されてしまう。
私はそうは思わないけど。
ハルバートは草原で寛ぎそのまま眠ってしまったケフロスを眺めながらそう考えた。
ハルバートは美しい。それは分かり切ったことだ。
テイベルスで一番美しいのだと散々言われてきたし、自負もしている。
その同族であるケフロスが美しくないはずがない。
ハルバートは銀、ケフロスは黒。毛が光を反射しない色だから、って言うの?
「こんなにも愛らしいのに」
穏やかに眠っている彼女を起こさないように優しくすり寄り、小さく呟く。
みんな分かってないのだ。ハルバートが美しいからってケフロスの美しさがかすんだり、劣ったりなどしない。
小さな羽根の名残が不完全だ、しなやかな身体を隠してしまう、とか。
「(ばかばかしい)」
そんなものがケフロスの美しさを減らしたりなんてするわけないじゃない。むしろ可愛らしいと思うのだけど。
そういうことを言うものは、みんな判子のように「ケフロスはハルバートに相応しくない」だとか、そういうこともセットで言ってくる。
うんざりしてしまう。他人が私とケフロスの関係に文句を言う資格なんてない。
ケフロスはハルバートの最愛である。
それは誰が何を言おうと揺るがない事実だ。
「ん……ハルバート?」
ハルバートがケフロスの羽根の根元をするするとなぞっていたところで、くすぐったかったのかケフロスがもそりと身じろぎをした。
起こしてしまったようだ。もう少し、無防備な彼女を堪能したかったのだけれど。
「おはよう、おねぼうさん。良く寝ていたわね」
「あぁ、うん……良く寝てしまった」
ケフロスは緩慢な動きで体を起こし、大きな口を開けて欠伸をした。
普段、テイベルスの民と居るときには涼やかで精悍なケフロスだが、ハルバートとふたりきりの時だけは随分と気が抜けた様子を見せてくれる。
――だから、なのかしら。彼女の愛らしいところは私しか知らないから。
そう考えて……ぱふ、とケフロスの背に顎を乗せる。
戸惑ったように名前を呼ばれるが、意図的に無視をした。
小さな羽根に頬ずりをすると、ひくりと腹がひきつる。そういえば、羽根は敏感なのだって言っていたっけ。
「ハルバート、あの……」
「好きにさせてちょうだい、ほっとかれたからつまらなかったのよ」
「う……」
羽根に頬を付けたまま舌を出して毛並みを舐め、くりくりと頬ずりを続ける。
だらしなくにやけた顔をケフロスに見られたくなかったのだ。だからといっていまのは可愛くないわがままだったかもしれないけど。
だって嬉しかったのよ。
みんなケフロスのことを知らないけど、私は知ってるってこと。
愛しているんだもの。このまま独り占めしていたいわ。
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