「サウンドウェーブ、スタースクリームはどこに行った!裏切り者めスクラップにしてくれるわ!!」
「申し訳ありません、逃げられました」
「あの愚か者めが……!」
メガトロンの悲痛な呟き。カセットロンも弱り、サウンドウェーブに身を寄せて攻撃に耐える。
新兵器を建設していたビルドロン達は、奇襲攻撃により早々にリタイアしていった。
結局新兵器は完成せず、そして今窮地に立たされている。
――こんなところで終わるわけには行かないというのに。
不意に、とてつもなく早い何かがこちらに飛んでくるのが見えた。
コンドルよりも、ジャガーよりも、早い何か。随分小さい。
「ど、い、てええええええええええええええ」
叫び声。聞いたことのある……そう、最近仲間になったばかりの、あの魔女の声。
飛来した小さな物体は、サウンドウェーブの手にキャッチされる。
「いたた……め、メガトロンさん達、無事?」
「貴様っ、何故こんな所に!?」
――メガトロンさんの怒鳴り声。わー、超怒ってる。
だが私はそれを無視して、メガトロンさんの治療にかかった。
サウンドウェーブさんがおろおろと私を見ているのが分かる。
「サウンドウェーブさん、怪我は?」
「問題ない」
「なら、よかった。……危険なのは分かってるんだけど、これあっちに置いてきてくれる?」
渡したのは、鞄から取り出したエネルゴンキューブ製造機。
あっち、と指を指したのは、敵と私達の間。
「何を言っておるんだ貴様、」
「メガトロンさんはしゃべらないで。治る速度が落ちるわ。動けないくらい傷付いてるじゃない」
ぐ、とメガトロンさんは唇を噛んだ。実際、腕が取れそうなくらい傷付いたりしている。
サウンドウェーブさんはジャガーに製造機を背負わせ、置いてくる様に言った。
ジャガーは一瞬ためらったが、凄い速度で置いて逃げ帰ってきた。
その頭をサウンドウェーブさんが「すまない、良くやった」と、優しく撫でる。
私はそれを確認すると、メガトロンさんから手を離し、魔法の詠唱を始めた。
ひょい、と顔を出して、私は無数の敵に向かってその魔法を発動させた。
「お行きなさい、サンダー。さて、少々お待ちを。あ、目とか耳とか塞いだ方がいいかもしれません」
「何?」
――爆発音。爆風。そして眩い閃光。
敵の悲鳴が聞こえる。「うわあ!」だの、「ホアアアア!」だの、「見えない」だの、「今のはなんだ」だの。
私は敵の目が見えないうちに、製造機を回収する事にした。
メガトロンさんは動けないし、サウンドウェーブさんも驚きで動けないみたいだから。またジャガーに行かせるのもアレだしね。
とことこと歩いて向かい、それを拾い上げる。……うう、頑張って軽量化したけど、やっぱり重い。
「くそっ、見えない!」
ぴしゅん、とレーザーを打つ音がした。それとともに、右腕に鋭い痛み。
痛みを我慢して、岩の裏に製造機を持ったまま駆け込んだ。
製造機の中には満タンのエネルギーが溜まっていた。多分これで足りると思う、多分。
「成功、したみたいね」
「レイ!?なんという無茶を、」
「あー、これぐらい平気よ」
右腕の手首より少し上あたりに、ぽっかりと一つ穴が開いている。まるでその部分だけ消えてしまったかのように。
ぼたぼたと止まることなく零れ落ちる赤い血が、乾き荒れた地面に吸い込まれていく。
びっくりするほど痛いが、気にしないようにすれば……うん、痛いわ。
骨は切断されてない様だから腕が取れたりすることはなさそうだけど、面倒臭い事になったわねえ。
でもそれよりも、今はメガトロンさん達が大事だ。こんな穴よりも酷い怪我だらけ。
ということで、私はエネルギーを取り出すと何分割かにして、それを皆に配った。
もちろん軽く治癒の力をこめて、だ。そうじゃないと頑張った意味がない。
皆は少しためらったあと、それを次々に飲み干していく。
徐々に皆の傷が癒えていく。それを見て私はほっとした。
「皆、動ける?」
「……あぁ。レイ、何故こんな所まで来た」
「ふふ、いい部下だからよ」
少しだけちゃらけてみる。メガトロンさんは深いため息をつき、私の穴あき右腕を撫でた。
ズキ、と痛みが走って私は思わずびくりと震えた。
「こうだから外は危険だといったのだ」
「でも、メガトロンさん達が死んじゃったほうが危険だわ」
「……メガトロン様、早く退却しませんと」
サウンドウェーブさんが急かした。敵たちの方を見ると、数人が起き上がりこちらを向いていた。
もうサンダーの効果が消えたのか。やれやれとため息を吐くと、私は二人に少し引いてくれと言った。
「行くわよ、アイス!」
箒を振り上げ、地面へ突き刺す。硬化した箒から氷が広がり、敵へと向かっていく。
敵はまた絶叫を上げる。まったくもって大げさな声を上げるのね、あの人たち。
敵の脚が凍り、身動きが出来なくなったのを確認すると、箒を引き抜く。
よし、と振り向こうとした時、ぐらりと視界が歪んだ。
箒を支えになんとか立っているが、結構やばい。体内魔力が足りなくなってるんだ。
このままではまずい。寝ている間にポックリ死んでもおかしくない。
「――ぅ、ブレイン」
あんまり使いたくない魔法。あたりから大量の魔力を集めるが、とてつもなく眠くなるのだ。
体がすぅ、と楽になる。だが、それと同時に強力な睡魔が襲ってきた。
ふらりとメガトロンさんの手に倒れこむ。私は弱弱しく笑みを浮かべる。
「ごめ、あと、頑張って、逃げてね、よろしく」
「っ、レイ!?……くそ、デストロン軍団退却ッ!!!」
浮遊感。無事に、帰れるといいのだけれど。
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