「エネルギー……?」
「そうだ。魔法には限りがあるといっていたが、電気を集める体質には限りがないのだろう?
少しずつでも構わん、エネルゴンキューブを作ってくれ」
「は、はぁ……」
メガトロンさんやサウンドウェーブさん達に体質や魔法のことを伝えると、彼らはそんなことを言った。
彼らはそんなにエネルギーが不足しているんだろうか?
「私を攻撃したり、拘束したりしなければそれでもいいけど……」
「ああ、それは約束する。サウンドウェーブ、こやつの居場所を作ってやれ」
「了解しました。コンドル、イジェクト」
サウンドウェーブさんは胸らへんをパカッと開き、中からカセットを取り出した。
カセットは見る見るうちに鳥のような姿に変わる。
「な、なにこれ、かわいい」
「おお、そういえばまだ言ってなかったな。我らはトランスフォーマー。様々な姿にトランスフォームする」
「トランスフォーム……」
呆れてしまった。目の前でメガトロンさんが巨大な銃に変形したのだから。
サウンドウェーブさんは次々にカセットを取り出し、それを変形させていく。
メガトロンさんは普通にさっきの姿に戻り、「期待しているぞ」と私に言って、そのままどこかへ行ってしまった。
親切な人だったな。人じゃないか。
親切なトランスフォーマーだったな。……これもなんか違うわね。
「必要なものは?」
「机と椅子とベッドがあればそれでいいわ。……って、用意してくれるの?」
「そうだ」
サウンドウェーブさんは無表情のままこくりと頷いた。
……なんだかこの人たち、優しい。私は「ありがと」と呟いた。
相変わらず無表情のまま、サウンドウェーブさんは機械鳥(さっきコンドルって言ってたな)や、機械猫(ジャガーって言ってた)に指示を出した。
「部屋はさっきの所でいいな?」
「どこでもいいわよ。邪魔じゃないところ」
「わかった」
サウンドウェーブさんは私を抱き上げ、結局さっきの部屋へとガシャガシャ音を立てて歩いて行った。
そっと私を床に降ろすと、見上げる私に話しかけた。
「必要なものはコンドルとジャガーが運んでくる。大人しく待っていろ」
「分かってる。……あなたは?」
「俺には仕事がある。……好きにしていろ」
そういうと、サウンドウェーブさんは部屋から出て行った。扉が閉まる。
んー、監禁というか軟禁というか協力というか。
まぁ、さっきよりはマシな待遇だろう。
ヒマだなー、と私は鞄を探った。
荷物は全て揃っていて、紛失したり落としたりはしてないみたいだ。
私は魔力を帯びたノートを取り出し、ペンでメモを始めた。落書きみたいなものだけれど。
「えーっと、あの世界から逃げ出して、たどり着いたのはトランスフォーマーが住む世界で……」
メガトロンさんっていうこの世界では有名らしいトランスフォーマーの上に落ちて。
それからサウンドウェーブさんっていう無口なトランスフォーマーがいて。
スタースクリームとかいうなんだか生意気そうな怖いトランスフォーマーがいて。
彼らは機械人形から様々なものに変形できて。
それから私は、協力するのを条件に彼らの住処に住まわせてもらうことになった。
「うーん、まぁこれでいっか」
ぱたむ、とノートを閉じる。ノートは一瞬点滅すると、そのまま勝手に鞄に吸い込まれていった。
その時、扉が開いた。入ってきたのはジャガーとコンドルだった。
その背中や手にはベッドと椅子と机。私がリクエストしたものだ。
「わ、ありがとね。ご苦労様」
私より少し大きいジャガーとコンドルの頭を撫でてやる。
ジャガーはぐるぐる、と喉を鳴らして私に擦り寄ってきた。うーん、やっぱりかわいい。
コンドルは私の上をくるくると回っている。喜んでるのかな?
ふふ、かわいいお友達が出来た。
とりあえずベッドは部屋の隅っこに。扉から一番遠いところね。
それから机はその隣でー、椅子も置いてー。
「……うーん、殺風景ね」
ベッドも硬いし。うーん、贅沢言えないのは分かってるんだけど……。
なによりも、どこからか調達して来てくれたジャガーとコンドルに文句言うのは可哀想だし……。
仕方ない、と私は箒を掴んだ。この部屋を改造することにする。
こんなの、魔法で何とかなるわよ。
「ジャガーとコンドル、危ないから外にいてね」
分かってくれたらしく、二匹は大人しく外に出て行った。
二匹揃って窓のところからこの部屋を覗いている。……かわいい。
「床の高さは窓のあたりまでが丁度いいかしら?結構高めだけど、手すりをつければ問題ないわね。
そうだ、プライバシー覗かれちゃあ困るから窓にカーテンつけちゃいましょう。
ああ、そうそう、窓も開くようにしなくちゃね。出来たら両開きがいいわ。縦でもいいけど。
それから扉の前に階段ね。私は飛ぶからいいけど、ジャガーが上ってこれるようにしなきゃ。
段は高めでもいいわね。ああ、それから出来たら床は木のほうがいいわ。机も。
それからベッドはもっと大きめに。白黒の布団が好ましいわね。クッションも一緒に」
ひゅん、と箒を振り上げる。目を瞑りイメージを巡らせ、それから呪文を唱える。
全て唱え終わる頃には、きっとこの部屋はとっても素敵な部屋になっているはず。
「夢が現に、現は夢に。現は夢と移り変わり、この空間は私の夢となる」
目を開く。夢の部屋が、そこにはあった。
木の床。木の家具。天蓋付きのふんわりとした白黒のベッド。それに置かれたたくさんのクッション。
椅子はなぜだかソファに変わっていたが、まあいいとしよう。
階段もちゃんと出来てるし、手すりもある。うん、多分これで下に落っこちることは無いと思うわ。
窓には白黒のカーテン。窓はどうやら両開きになったみたいだ。
窓を開けると、コンドルとジャガーが相変わらず覗き込んでいた。
窓が開いたことによって、二匹とも少なからず驚いているようだった。
もう入っていいよと告げると、二匹は颯爽と扉を開けて入ってきた。
二匹は部屋に入って、さらに驚いた。
コンドルはベッドの天蓋に止まり、キョロキョロと部屋を見渡す。
ジャガーは階段を勢い良く駆け上り、クッションにじゃれた。
「気に入った?私は凄く気に入ったわ」
そう呟いていると、また扉が開いた。
入ってきたのはサウンドウェーブさんだ。
「大量のエネルギー反応を感知。……!?な、なんだこれは」
階段を踏みそうになり、あわてて下がるサウンドウェーブさん。
おお、壊さないでくれた。律儀だ。
「好きにしてろって言ってたから、好きにしたわよ」
「……魔法か?」
「そう。……駄目だったら戻すけど……」
「いや、許可する。……エネルギーはあまり無駄遣いするな。ジャガー、コンドル、リターン」
サウンドウェーブさんはそれだけ言うと、何かの機械を置いて部屋を出て行った。
ジャガーとコンドルも少しだけ名残惜しそうに私を見つめたあと、サウンドウェーブさんを追いかけて部屋を出て行ってしまった。
この部屋には、私と蝙蝠だけになった。
私はサウンドウェーブさんが置いていった機械に近づいた。
私にはちょっと大きくて、持ち運べそうにない。
金属の板(なんかリモコンみたい)と、大き目の機械、その中にある透明の箱みたいなもの。
リモコンみたいなのは持ち運べそうね。
それを拾い上げると、帯電していた電気が吸い取られ、大き目の機械へと転送された。
透明の箱に、ほんの少しだけピンク色の光る液体が溜め込まれる。
「……もしかして、これがエネルギー?」
つんつん、と大き目の機械をつっつく。ゆらゆらとピンク色の液体が揺れる。
……これを溜めたら、エネルゴンキューブになるの?
目的を一つみつけた。私はこれを溜めれば、他になにしててもいいのよね。
「……でも、暇だわ」
窓際に寄せたベッドに座り込み、窓枠に肘をついて呟いた。
モニターのある部屋には誰もいなかった。
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