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ドMの異世界惨殺記 リライト 8話
2017~


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 *

ぱち、と目を開くと、すぐそこにギギの横顔があった。
腕枕されてる。折角だからスリスリしておこう。
……お?服着てない。捨てたのかな。汚しちゃったしな。
というか、路地裏でスプラッタだったけど大丈夫だったのかな。

「……目が覚めたか」

少しかすれた声と共にギギの視線がこちらを向いて、頬を突かれる。
私はクスクス笑って身をよじって、もっとギギにくっついた。
嫌がられてはないみたいなので好き勝手する。
調子に乗って頬にキスしたら、引き寄せられて舌を好き勝手されてしまった。
ふやけた顔をぐぬぬと悔し気に歪めると、ギギは嘲るようにクッと笑った。

「ね、ここどこ?」
「宿だ」

改めて周りを見回してみると、確かに室内だった。
素朴ではあるものの広い木製の部屋は一通りの家具が揃っているようだ。
いつの間に路地裏から移動したんだろう。誰かに見とがめられなかったのかな。
ギギがそんなヘマするわけないか、となんとなく思う。

うーんそれにしても、途中で意識飛んじゃったからそこそこしか覚えてない。勿体ないことしたなあ。
でもまあ、最初に見れた余裕ないギギとかめっちゃレアだったに違いない。
ギギは冷静なオトナだから、焦ったりしないと思ってたけど。

「ねね、私どれくらい死んだ?」
「……数える暇が無かったな」

そう言ってギギは手を何度もぐーぱーして、諦めたように手を振った。
そっかあ、と寝返り。まあ、私も数えて無かったしそんな余裕なかったし覚えてないし。
窓の外をチラ見すると、オレンジ色の空が見えた。もう夕方みたいだ。

宿の備品は汚れてないし、ベッドサイドに投げられた服もとくに汚れてない。
綺麗にしたのか、そもそも宿では何もしてないで寝てただけだったのか。
うーん……そもそも宿に入ったときの記憶がトんでるから考えてもどうしようもない。
自分の身体はすっかり元どおり。傷もないし、内臓も元気だ。
……ああでも、お腹は空いたかな。はしゃいだ結果か。

寝転がったまま本を読み始めたギギにお腹が空いたと伝えるか悩んでいたところで、薄暗くなり始めた部屋にノック音が響いた。
お客さんだ。誰だろう。
ギギはピクリと顔を上げて、少し嫌そうな顔をして面倒くさそうにまた本に目を落とした。

「……ワカ、お前出ろ」
「はーい」

体を起こしてベッドから降りて、はた、と気付く。
そうだよ全裸だよ。私は気にしないけどてぃーぴーおー的にこれはいけない。
付けたままの指輪をかざそうとして……なんだか面倒に思った。
まあ、最低限でいいでしょ。二枚あったベッドシーツを一枚拝借して、ぐるりと体に巻き付ける。
そうして白いシーツをズルズルと床に引きずりながら、私は扉へ向かった。

「はーい、だれですかー?」

ギギが本を見つめたまま何かを唱え始めるのを尻目に、私は扉を開ける。
だが、意外にもそこには誰もいなかった。
あれ?お客さんじゃないの?

「"ファイアボール"」

ん?いま、何か聞こえたような気が。
ヒョコリと薄暗い廊下へ顔を出すと、目の前に巨大な火の玉が迫っていた。
ごじゅっ。――熱いだとか痛いだとか、そういうのを感じる暇もなく。
火力が随分強かったようで、私の首から上はきれいに一瞬で焼け尽きてしまったのだった。

頭を失って前のめりに倒れこんだところで、誰かにぐりゅっと背中を踏まれる。
ああん酷い。意識あるのにぃ。

じゅるじゅると小さな音を立てながら、再生はとっくに始まっている。
うーん、ちょっと遅いなあ。まあ、ある程度回復すればなんとかなるとは思うけど。

目だの耳だのが形成されてきて、ようやく辺りの様子が伺える。
ぎりぎり、という金属のこすれ合う音が聞こえる。
両手を床について体を起こして振り返ると、ギギと顔を隠した黒づくめの知らない人がナイフとナイフでつばぜり合いしているところだった。
……え、誰。黒づくめだけど体系からして女の人なのは分かる。

「ワカ」

ギギが面倒くさそうに私の名前を呼んで、黒づくめさんを睨み付けている。
えー、手伝えってこと?そんなこと言われてもどうしたらいいのさ……そもそも一人でなんとかできそうじゃん……。
私は困ったように眉をハの字にして、とりあえず開けっ放しの部屋の扉は閉めることにした。

動きにくいシーツをポイして、ひたひたと二人の方に歩く。
黒づくめさんはギギとのつばぜり合いに必死なようで私に気付きもしない。
というか、そもそも頭壊したヤツが動くなんて思いもしてないんだろう。
しめしめ。そーっと近づいて、後ろから黒づくめさんに抱き着いた。

「っな!?」

意外にも声は結構かわいい系だった。
焦ってバランスを崩した黒づくめさんをギギは強く蹴って、抱き着いている私もろとも床に転がった。
振りほどこうとしているのか黒づくめさんが私の腕にナイフを突き立てる。

「やん、乱暴」
「ばっ……バカな!」

声を聞いてようやく抱き着いているのが私だと気づいたようで、黒づくめさんは驚愕したような声を上げた。
死んだはずの人間が邪魔をしてきたんだから、そりゃ驚くか。
ナイフで腕を切り刻まれつつギギをチラ見。なにか長々と唱えている。
どうやらそこそこ大きな風魔法を構築しているらしい。
……ん、あれ?なんで呪文理解できてるんだろ。まいっか!

「いつでもいいよ、ギギ」

ギギに大技で殺されるとかうらやまけしからん。
私もろともやってくれ!なんて少年マンガのようなことを考える。
腕を切り刻まれるのが煩わしくなってきたので、ナイフを素手で掴む。
愛のない痛みは煩わしいだけだ。私はギギに与えられる愛でいっぱいの痛みに味を占めてしまったのだろう。

ギギの大技への期待に表情をとろけさせ、知らない人をさらに力強く押さえ付ける。
さあ、さあ!ギギ!殺して!!私もろとも!!
とろけた笑顔で見上げると、ギギも嗜虐的な笑顔だった。
いえーい分かってるう!流石ギギ!

「"風の刃よ"」

そうして指パッチンと同時に発動した魔法は、無数の風の刃となって飛来した。
あれは私をどんなふうに切り裂くのだろう。どれだけの痛みなんだろう。
……そうやってわくわくしすぎて力が緩んだのだろうか。
黒づくめさんは私の拘束を振りほどき、無理矢理体制を変えて私を壁にした。

「あ」

鋭く冷たい痛みが全身を通り抜け、びしゃりと血が部屋中に飛沫く。
――細切れなバラバラは初めてだ。ぼとぼと。どちゃ。
うーん……好みじゃない。それだけは確か。

それにしてもさっきから意識がはっきりしている。
どういう基準で意識があるかないかが決まっているのかよく分からないが……まあ、都合がいいから良しとしよう。
頭も体も全部もれなくバラけてるって言うのに、私はいまどこで思考してるんだろう。実にファンタジー。

「く、そ……」

風は壁になった私を貫通して威力が弱まったものの、少なからず黒づくめさんも切り裂いたようだった。
ギギは細切れな私の残骸を足で蹴りどけて、ふらふらしている彼女の襟首を掴み上げた。

それにしても私が不死だからって扱いが酷いよギギ。
まあ、原型を留めて痛め付けるのが趣味らしいから、今の私みたいなバラバラの状況は趣味じゃないんだろう。
まったく、本当に好みが合いますね。

じわじわとパーツを集めてくっつきつつ話を聞く。
耳もないのにファンタジー。さっきは耳が出来てからじゃないと聞こえなかったのに、一体何故なのか。
気持ちの問題?私も進化してるのかな?違うか。アハハ。
うーん、それにしてもやっぱり時間が掛かる……。原因不明だからどうしようもない。

「強盗か?随分無謀だが」
「うぐ……はなせ……!」

どうやら知らない人の目的はもとからギギだけだったらしい。
なるほど私は巻き込まれただけなのか。

「まあ、俺を殺せたなら大金が手に入っていただろうな。俺の首は高い」
「……!?賞金首……」
「なんだそっちには気付いていなかったのか?つまらん」

ギシ、と首が絞めつけられる音。黒づくめさんが苦しそうに呻く。

「……宝石店で俺のカードを見た、と。シルバーだと思った?プラチナで残念だったな」
「っな、何!?」
「そう驚くな、うっとおしい。記憶を読んでいるだけだ」

ギギは目を細めて知らない人の首をさらに締め付ける。
記憶が読めるってすごい。さっすがギギ!
私の記憶も知らないうちに読まれてたりするのかな?やーん恥ずかしい。
そうなると隠し事が出来ないなー。いや、別に隠し事しないけど。
ワカちゃんはいつだって正直者なのだ。

「ブロンズのくせによく頑張ったな」

バカにするみたいにそう言って、ギギはクツクツ笑っている。
ギギってば精神的に痛めつけるのも好きなのね。
私にはあんまりしないけど……まあ、肉体的に傷つけられる方が好きだからそれでいいや。
でも、楽しそう。その矛先が私じゃないのはちょっとだけ寂しい。
……あれ、右腕どこだ?パーツは集まってるはずなんだけど。

「それにしても美しい妹だな。似ていないが腹違いか何かか?」
「……!?貴様ッ」
「なるほど金が無いから強盗か。妹のために?健気なものだ……」
「妹に手を出したら貴様を許さんぞ!」

あ、私の右腕ギギが踏んでるじゃん。
下半身はまだ完成してないので、左腕でどうにかずりずり這いつくばる。
そうしてギギの足元に到着して足をつつくと、ギギは黒づくめさんから目を離して私を見下ろた。

「ギギ、私の腕踏んでる。返してよう」
「ん?ああ、悪い」

本気でまったく気付いていなかったらしく、ギギは軽く謝って腕から足を退けてくれた。
赤い足跡のついている右腕を拾い上げ、断面をくっつけるとじゅるじゅると癒着。
ぐーぱー。よしくっついた。あーでもちょっと線残っちゃうな。困る。

「……っな、なんなんだこの化け物は……!?」

構築の済んでいた下半身をズボンを履くみたいに気楽にくっ付けていたら、黒づくめさんが目を見開いて驚いていた。
え?化け物?どこどこ?……ああ、私のことか。無駄に後ろ振り向いちゃったよ。

まあ、仕方ないか。頭焦げて無くなったのに治ったし、バラバラになっても治った。
常識的に考えて普通じゃないよね。神様ありがとう。やりすぎです。

「俺の恋人だ」
「やだギギ恋人だなんて……」

いきなりそんなこと言われたら照れちゃうよ。
……ガンスルー。ぐぬぬ……今照れるべきは全裸の方だったか?
シーツ邪魔だったからポイしてきちゃったし、別に見られて減るもんじゃなし……。
軽く顎が掴まれ、黒づくめさんの方に顔を向けさせられる。見せつけるみたいに。

「美しいだろう?何度殺しても生き返る」
「……狂ってる……」

自慢するギギをおかしなものを見る目で見つめる黒づくめさん。
狂ってる?これが私たちの愛なのになんてことを言うんだ!
いやまあ、一般常識からはズレてるってわかってるけどさあ!

むす、と不機嫌。どうやらギギも私と同じく気に入らなかったようで、眉間に皺が寄っている。
動けないようにするためなのか、バチリとギギの手から電流が迸る。黒づくめさんはびくりと身体を震わせて、力なくへたり込んだ。

「この美しさが分からないのは気の毒なことだ」

そんなギギの声は穏やかで憐憫に満ちていたが、こめかみには青筋が浮かんでいた。
うわ。凄い怒ってるじゃん。愛されてるなあ私。ヘヘヘヘ。

「ワカ、教えてやれ。どうすれば美しいのか」
「はい!」

ギギは黒づくめさんをベッドに寝かせて、私にナイフを持たせてくれた。
黒づくめさんはさっきの電流で体が完璧に麻痺してしまったようで、怯えた目で私達を伺っている。
私はそんな黒づくめさんの上にまたがって、まずは彼女が着ている黒い服をナイフで裂いて脱がせることにした。

とりあえず顔を覆っている布を外すと、これがまた美人さんだった。
きれいなふわふわの茶髪に、ちょっとキツそうな涼やかなお顔。
美人なのにお金ないなんて大変だなー、なんて他人事。

わあ、それにしてもおっきい胸。ちょっぴり嫉妬しちゃうな。
ちらりとギギを伺ってみると、とりあえず見てるだけだった。私を。
おっきな胸のセクシーなこの人じゃなく、私を。
ふふん……優越感……。

「うんと良くしてあげる」

にこ。
優越感によって余裕いっぱいのワカちゃんが優しく笑いかけてあげると、黒づくめさんの顔はカッと真っ赤に染まった。
彼女の身体が動かないことをいいことに色々と触る。
すごーい!他人の胸って自分のを触るよりやわらかく感じるんだね!
しかもものすごい弾力だし。体鍛えてるのかな?だからかも。
いいなあ。嫉妬しちゃうなあ。羨ましいなあ。もにゅもにゅ。

胸は大きくて腰は細くてお尻やフトモモはむっちりしてて、なんていうかナイスバディ。ぐぬぬ……お肌もすべすべ。
でも白さは私の方が上だもん。ふふふん。
……茶髪、柔らかくてふわふわ。ぐぬぬ。

「やっ、いや……」

ふるふると震え、頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳からは涙が零れる。
美人さんなだけあって破壊力バツグンだ。女の私でもドキッてしちゃうね。
まあギギは私を見てるんですけどねー!!ワハハ!!

十分堪能した胸から手を離しするすると下へと撫でていくと、黒づくめさんはぎゅっと目を閉じた。ドキドキと心臓が波打っているのが分かる。
すり、と下腹部をなでると、鼓動がうんと早くなる。
そんなに期待しなくてもすぐにやってあげるのに……あんまり焦らしちゃったら可哀想か。
そう思い立ってナイフを下腹部に深く突き立ててやると、黒づくめさんは予想外だという風に目をいっぱいに見開いた。
ウンウン言いながらか弱い腕に力を込めてナイフを動かすと、圧によって内臓がもこもこと溢れてくる。

「ね、ナイフっていいよね。私も大好き」

そうやって笑いかけるが返事はなく、顔を見ると黒づくめさんはぐるんと白目を剥いていた。
え?あれ??……死んだの?これだけで??まだ穴をあけただけなのに。
困った様にギギを振り返ると、ギギは「あーあ」とでも言いたげな顔でため息を吐いていた。なんでええ??

「下手くそ」
「え……でも……」

私、ここが一番好きなんだもん……。
ギギはまたため息を吐いて、おろおろする私の頭を撫でた。

「まあ、慣れていないから仕方がない。この女もそこそこ美しくなれていた」
「ほんと……?」
「ああ。だが……やはり、ワカにはずっと劣るな」

私の手から血に塗れたナイフを取り上げて、ピッと血を振り払う。
黒づくめさんの血をきっちりと洗い流して拭い去ってから、私の腕を取る。

「人は誰しも美しくなれる。そして、死ぬ瞬間が最も美しい」
「そうなの?」
「ああ。俺はお前ほど美しい者を他に見たことがない。……お前は常に生きて、常に死んでいる」

する、と片手で頬が撫でられる。もう片方の手はぎゅっと繋いだ。
私の目頭から目尻までを親指がなぞって、瞼にキスが落ちる。

「リーズロッテのような赤。お前だけだ」

目を細めて微笑んだその顔は、愛しいという気持ちに塗れていた。
私もギギも、どんどんお互いに惹かれていってる。
ねえ、そう思ってもいいんでしょう?

「私もすきよ、ギギ」
「俺はなにも言っていないが」
「分かるよ」
「……そうか」

くしゃくしゃと髪を乱されて、前髪のせいで前が見えなくなる。
なんとなく、照れ隠しなんだろうなって思った。

ギギは黒づくめさんの死体をベッドの上から蹴りどけて、かわりに私をそっと寝かせた。
冷たい手が頬を撫で、首を軽く引っ掻いて、胸をなぞり、腹を軽く押す。

「んぅ」

少しの不快感に小さく呻くと、唇にキスが降ってくる。
拙くぺろぺろと舐め返すと、丸ごと食べられてしまう。
冷たい掌が撫でていた腹には、いつの間にか白いナイフが触れていた。
教えてくれるつもりなんだろうけど、私はお腹が空いている。

「ねえ、ギギ。私お腹が空いたよ」

たっぷりとした沈黙。ギギは苦い顔。

「……その前に、あと一度だけ殺させろ」
「……しょうがないなあ」

ふふ、と笑ってしまったのと同時に、ずぷりと私の腹に冷たい物がめり込むのだ。

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