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ドMの異世界惨殺記 リライト 1話
たぶん2016~

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 *
目を開けてみれば白い天井。
白い天井は死ねるくらい見飽きているわけだが、どうやら私の知る白い天井ではないようだった。
どこだろう。知らない場所だ。

……にしてもいつもの痛みがまったく無い。
麻酔が効いてる……って感じでもないな。
違和感を感じつつむくりと体を起こしてみればなぜか私は真っ裸。
見回すまでもなく、目の前にある一つの机以外は何も見当たらない。

量産型のアルミのデスクには量産型のデスクトップパソコンが置かれ、これまた量産型の椅子には目付きの悪いサラリーマンのような男が座っている。
その目付きの悪い男はジロリと私に視線をやって、デスクに山積みの書類をぺらりと一枚めくった。

……いや、誰この人。
人に肌を見られるのはそんなに珍しいことでもなかったので、それは別にいい。
そんなことより私そこそこ人見知りだぞ。どうしよっか。
特に恥じらうこともなく訝しげに見つめると、男はさらさらと書類に何かを書き込みながらなにかを呟いた。
男の声は小声だったのにそれは耳によく聞こえた。

「君は選ばれた。元の世界とは違う世界で生を受け、その世界で好きなように日々を過ごすといい」

……えっ。

「思うが侭、望むが侭の好きな力をやろう。だが、拒否権はある。
 拒否する場合には丁重にもとの輪廻へ戻そう。時間が押しているので、3分で考えたまえ」
「よくわかんないけどとりあえず服ください」
「……」

男は無言のまま書類に何かを書き込み、ため息。
気付くと私は白いキャミソールみたいな簡単なワンピースを着ていた。
おおー、いい生地使ってんね。
あ、でも下着はないのね。いや下着まできっちり作られてもそれはそれで引くけど。

うーんそれにしても、このサラリーマンは何を言っているのだろうか。
元の世界とは違う世界?ようは異世界ってことかな?
チラッとだけテレビでやってたアニメでそういうのは見たことあるけど、そういうこと?
永遠にその世界で過ごせ?なんでまた。
聞けばいいか。

「ねね、質問なんだけど」
「異世界であっている。その世界は少しバランスが崩れつつあるので、バランスを直す媒介になって欲しい、と言うことだ」

男は腕時計から視線を外さないまますらすらと答えた。
このひと心読んでるの?すごいな。私も読みたい。
いややっぱいいや。どうせろくなことにならないだろうし。

バランスを直す媒介、っていうのは。……うーんよくわからない。
難しいことは考えるのめんどくさいなあ。おつむは残念なのだ。
とりあえず、私も魔法とかなんだかでキャッキャ出来ると考えていいのかな。

「いかにも魔法は存在している。……時間だ、決まったか」
「じゃあ行く!」

恥ずかしい話、私ってば小さい頃からベッドで寝たきりの生活が続いていたから、あまり外の世界を知らないのだ。

旅をしてみたい。
恋だってしてみたい。
美味しいものを食べたい。
夢のような愛を得てみたい。
いろんなことを試してみたい。
本やテレビなんかじゃない、本当の世界を見てみたい。

でもきっと元の世界ではそれは叶わないだろうな。
この男の言葉からして、きっと私は死んだ。
きっときっと、あっけなく死んだのだ。
いつもと同じ白い部屋で、いつもと同じように機械に囲まれて、今までと同じように一人っきりのまま。

あーあ、死んだときを覚えてないってもったいないよなあ。
どれだけ痛かったのだろう。どれだけ苦しんだのだろう。
ずっと付き合ってきたあの身体が疼く痛みも、なくなってみれば寂しいったらありゃしない。
ようやくいいお友達になれて、恋人にしてやってもいいくらいにはなって来てたのになあ。

……ああそうか、これから何回も死ねばいいんだ。
意識を保ったまま、何もかもを認識したまま。
あのどうしようもない生きている心地を、苦痛の快楽を得るために。

「すっごくすっごい魔法の才能!それからそれから、何度も何度も何度も死ねる体!」
「良いだろう」

きっと私はその時、めちゃくちゃ目がキラキラしてたに違いない。
両手をぎゅっとこぶしにして欲しいものを告げると、男は無感情なままさらさらと書類に文字を書き込んだ。
すごい温度差!嫌いじゃない!
そうしてしばらく書き込みを続け、目頭をつまみ、大きな判子に手を伸ばす。

「では"ワカ"。君は永遠を楽しむといい」
「うん!……で結局あなたは誰なの?」

その最後の質問には答えないまま、男は大きな判子を書類に押した。
わかったのはそこまでだ。瞬間視界が歪み、私はまた意識を手放したのだ。

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